「野戦病院」
その頃の私は先に書いたように、マラリアの高熱で意識を失ったり蘇生したりを繰り返したので、ジャングル内の野戦病院に行くように言われ、そこに負傷して入院治療していた１中隊の越智中隊長の当番兵のような事をしながらマラリアの治療を受けた事があった。既にその頃にはマラリアの特効薬のキニーネは全然無くなりマラリアに効く言われた野草の汁を煎じて飲んで治療していた。
そんなある日越智中尉が食事を交換しようと言うので、自分で作った食事（外米少々に付近の野草を混ぜんて岩塩で味付けしたお粥なのかおじやのような物にバッタのような虫を５～６匹焼いておかずにした）と、隊長の食事（将校の食事は衛生兵が作り外米ながら一汁一菜であった）と交換して食べたが、汁は醤油の色は付いていたが全然塩気がなく、煮付けたおかずもそれなりの色は付いていたが全然塩気の無い、所謂無塩食であり、化膿止めの食事という事であったが、これではまずくて食べられずなかなか体力がつかないのではないかと思った。
そして野戦病院とは名ばかりで医薬品等は全然無く、食料等もだんだん少なくなってしまったのか将校の食事は衛生兵が作ったが、それもだんだん量が少なくなり、ジャングル内故にうす暗いじめじめした湿気の中で蚊や蝿が群がっている最悪な環境の中、次々と担送されて来た患者は治療を受けられず、ただ寝かされているだけで次々と亡くなっていき、これでは人間の墓場だと言われ、皆病院へ行くのを嫌がっていたが、私はそんな最悪の環境の野戦病院を抜け出し、２中隊の生き残った皆の所へいつ頃戻ったのか判らなかった。
分散警備についていた仲間達もマラリアの高熱で頭がやられ、前途を悲観したのか、拳銃で頭を撃ったり、また小銃の銃口を口に入れて足の親指で引き金を引いて自殺する者、また軽い傷だった者達も消毒薬等医薬品が何も無い状況下、汚れた包帯の下の傷が化膿し蝿の卵が蛆になり、傷の辺りに何百かわからない蛆がうようよとうごめいているが、その蛆を取り払う気力・体力も無くなり放ったらかしの者や、治る見込みの無いのを悲観したのか銃剣で腹を刺し、苦しみながら死んでしまった者、更に何にも食べる物が無くなり、体力を消耗して栄養失調になり、アメーバー赤痢に罹り猛烈な下痢症状で１日に２０回以上も便意をもよおすようになり、寝たままで垂れ流し状態になってしまい、粘液便だったのが血便が出るようになり身体はどんどん痩せて、顔は骸骨に皮が張り付いたような人相になり、太ってふっくらした顔の者もやせた顔の者も皆同じような骸骨顔になってしまい、誰が誰だか判らなくなって死んでしまい、ますます凄惨な状況になっていった。