「P５１戦闘機」
我々には火砲（高射砲）も弾丸も観測機材も無くなり、小銃や帯剣を携帯するのみの一般兵になったが、高射砲兵故に米空軍機の攻撃には神経を使ったが、この頃になるとサルミ周辺には４発の大型爆撃機のB２４やB１７Bは来なくなり、おそらくビアク島やマノクワリ更にボルネオ方面の日本軍陣地に攻撃をしかけていたと思われた。代わって濃緑色で双発、垂直尾翼が２枚の米海軍のマーチン爆撃機の編隊が、サルミ地区一帯に落下傘爆弾による低空爆撃や機銃掃射を繰り返すようになった。
この落下傘爆弾が椰子の樹に引っかかり、ゆらゆらゆれている下を通る時は、いつ落ちて破裂するか判らず肝を冷やしたり、また新型戦闘機と思われる、エンジン部分が細長く（水冷式）単発、低翼、単葉で銀色のスマートな機体で、いかにも速そうな感じがしたが、後で調べたら当時米陸軍の最新鋭戦闘機のリパブリック ランサーP５１で、最高速度６００Km/ｈ以上可能、この戦闘機が低空を飛んできて、地上の日本軍陣地に機銃掃射を繰り返した後、補助燃料タンク（ドラム缶２本を縦につないだくらいで、両端が尖っていた）を我々日本兵めがけて落としていったが、初めは大きな爆弾を落とされたと思ってびっくりさせられた。
そして地上からの対空砲火、即ち我々高射砲隊を殲滅しいなくなったと思ったのか、このP５１が高速で銃撃の後に、大きな木と木の間隔が１０～２０ｍくらいしかない間を横になって次々とすり抜けて行くような大胆な飛行を繰り返して、まるで新しい戦闘機の性能を確かめ訓練しているように見えた。これを見た我々は「大砲（高射砲）と弾があり、測高器で計測すれば絶対撃墜出来る」と仲間と共に悔しがった。